13年12月09日//都筑区防水塗装 気持ちは塗装職人



先に言われた内容を何度も頭の中で反芻しながら、目の前の景色に意識を集中させます。
必然的に無言になる中、井上さんが撮ってくださっている音が聞こえます。
イさんが見守ってくださっている気配を感じます。
ウレタンの難しい所は、多く取りすぎると下に垂れすぎますし、少ないと全然伸びない所。
一度成功しても、次は多かったり、または少なかったり……作業をしてほんの数時間程度の私は、そんなことを繰り返します。
ただ一つ気を付けた事は「段差を出さない」事。いくら厚みに違いがあったとしても、段差を付けてしまう事は美観に関わります。
ウレタン塗料の質は自信があります。それは絶対です。

だから、今、自分が出来る事は
「綺麗にウレタンを塗布する」
ということ。

素人でも出来るからこそ、それを知っているからこそ、慎重さは増すばかりでした。
さすがに髪の毛についたら落ちづらいので気をつけましたが、何もないところに髪の毛をくっつける事くらいは気にしていられません。
しかし気をつけなければいけないのがもう一つ。午前中、べたべたと楽しさと新鮮さにかまけて塗りたくったパテ。
これがもちろんまだ乾いていませんし、だから踏んではいけないのです。
「気を付けてくださいね」
そんな言葉を再三投げかけられながらの作業。
もちろん、きょろきょろとあたりを見回して姿勢を作りますが、集中するとずるずると足がずれ、気付いたら靴下がねっとりとウレタンに持ってかれそうになっていた事もあります。


なんとか立ち上がりの塗布をおえた私たちは、ほっと一息もつかの間。
いそいそとベランダから出て、あとは防水職人の腕をしっかりと目に焼き付ける為、振り返ってベランダを覗きこみます。
ダイさんは今後のこと(逃げ場とかを作るためですね)を考えて、室外機の部分を残して奥から塗り始めます。

たっぷりとウレタンを零して、ヘラで撫でつけます。
普段目にするサラセーヌ専用のヘラはあまり使用する気配がなかったため、使わないのか尋ねてみたところ、今回は使用をしないそう。
これは、下地が綺麗な場所ではいいんですが、今回のように下地が悪いところだと、かえって綺麗に仕上がらないんだそうです。

なので今回は、左官屋でも良く見る……絵的にも馴染みがある、コテを駆使しての塗装です。
私たちとしてはてきぱきと素早くこなす様に感嘆を漏らす程ですが、ダイさん的には「しっかりと見てもらいたいから」という理由で実はゆっくりやってくれているんだそう。
それでも十分早いスピードです。
動画で見ていた通りの動きをするダイさんの施工を、カメラを抱えてマジマジと見つめるしか出来ません。それでも必死で収めますが。
半分ぐらい行ったところで、ぐるりと腕を大きく回して周辺を塗布しはじめます。


ダイさんの足元には、私たちがべたべたに塗りたくったパテが。
踏まないように気を付けながら塗っていくのですが、覆い尽くす量はとてもじゃないけど捌ききれません。
しかもその辺りを担当したのは私なので、申し訳無さは募るばかり。こういう事も考えてパテをしなければならないんだな、と、逆算をする事に大切さを感じます。
ここを歩くから塗らないだとか、動線を作らなきゃならないんですね。
何とか足の置き場を作りながら、コテで伸ばして、ローラーで慣らす作業をダイさんは繰り返し続けます。
そうそう、コテで伸ばした後、そのままだとコテの跡がついてしまうので、ローラーを転がして筋を失くすんですよ。
腕を目一杯伸ばして塗布するウレタンは、気付けば本当に艶やかに綺麗です。

この間も、カズさんと竹内さんは黙々と屋根の縁切り中です。
かれこれ三時間はやっていると思うのですが、まだ終わりが見えないみたいです。
「ほんとに大変なんだよー」
といつもの調子でぼやきながら、無駄な動き無くカッターの刃を取り替えて縁切りを行っています。
縁切りの姿は屋根の上のためしっかりと間近で見届ける事が出来なかったのが、心残りではありますね。

最後、立っていた場所を塗るのに室外機を置いている台に足をかけます。
上手くバランスを取って、腕を伸ばして塗布をしていたのですが……元々ゲラなんですよね、ダイさんって。
「ダイくんこけたりしないでね」
「笑わせないで下さいよ」
カズさんの一言に、ふふ、と笑いが零れたその一瞬でした。
ダイさんの体が傾いて、しっかりと塗布したウレタンの中へダイブする瞬間はほんの一瞬で、慌ててバランスを取ろうにも、何処にも捕まるところはなく、重力のままに……!