撹拌し終わった塗料を足場の上へ乗せるとひょいひょいと自身も足場の上へと登っていく職人を見上げ、どうすれば良いのか悩んでいると「ここから登ってください」と指示の声。
ここ、と示されたところを見ると足場のパイプがはしごのようになっているところでした。地面と垂直になるようかけられていて、見事なまでの90度。
ゆっくり登っても平気なように最後尾にしてもらって一段づつ慎重に上がります。手でパイプを掴んでも心許なく、抱きしめるようにしがみ付きながら、なんとか2階部分にかかった足場まで到着しました。
何とかなった!と喜んでいると次はベランダへ入ってくれと言う指示が…。実は足場とベランダの間は十数センチほど空いていてキッチリついていないんです。
付いているとメッシュシートが煽られて足場が揺れた時にぶつけて傷を付けてしまう可能性もある、と頭では分かっているんですが、
この隙間を越えて、ベランダの高い手すりを飛び越える勇気と腰は、私にはありませんでした…。
飛び越えるための勇気を振り絞ったとしても、行きはよいよい帰りはこわい。
降りれなくなったからと言って、お家の中を通してもらうわけにも行きませんから、無理をせず今日1日は専属の撮影係として頑張ります。
他より少し足場の幅が広い部分に乗って、足場の鉄パイプに片腕をかけ、もう片腕はベランダの手すりをしっかりと握り、体勢を安定させたところで何とか一息。
この日の撮影中は大体ここに居ました。私のベストスポットです。
「下は見ない、下は見ない」とおまじないのように呟いて深呼吸を繰り返し、バクバクと鳴っていた心臓もやっと落ち着いた頃、私以外の女子2人がベランダへと降りていきます。
既にウレタンが1層流しこまれているため、靴痕をつけないように靴を脱いで、靴下でベランダへと入っていく2人。1人は職人さんに手を引かれて、もう1人は軽々と自分の力で。
降り立った2人が渡されたのは、オレンジ色のゴムべラでした。まずはこれを使って、凹凸が出てしまった部分を消していきます。
パテをヘラにすくい取って、押しつけるように擦りつけるように塗り込んでいきます。
比較的広いベランダとは言え、大人3人が同時に入ると狭く見えました。職人から作業のポイントを聞きつつ、ヘラで一生懸命に凹凸を埋めていく2人。
折角、埋めたところも足で踏んでしまっては意味がなくなってしまいます。もちろん、最後は踏まないようにベランダから出てこなければいけません。
移動を考えながらではないと足の踏み場を失くしていってしまうので、あっちに行きます、こっちは終わってます、と掛け声をかけながら作業を進めていきました。
一か所に何度もヘラを押し当てている女子に、どうかしたのかを聞くと「埋めたところが逆に厚くなっちゃって、ぽっこりしてて気になる」と一生懸命ヘラでならそうとしていましたが、上手く行かないようす。
そこで職人がコテを持ってきて、必要以上についてしまったパテを取ってくれました。その後にヘラで軽くならすとぽっこりしていた部分も綺麗に。
この時に人指し指と中指の間に挟み、親指を添えて…と、コテの持ち方の説明もしてくれました。
強く握り込むような持ち方ではなくそっと指を添えるだけのような優しい持ち方。どうしてこういう風な持ち方をしているかにも、もちろん理由がありますが、これは後でお話しますね。
パテで凹凸を埋める作業が終わり、次の作業の用意に向かいます。そう時間も経っていないはずなのに懐かしい地上の安心感に浸りつつ、職人の作業の様子を見学。
次の塗料を練るのだろう、と思っていると今まで使っていた道具を片付け始めました。
いつもは職人1人ですが、今日は私たちもいるので、単純計算でいつもの3倍の道具が必要になります。
もしかして道具が足りなくなってしまったのかもしれない、と思って頭を下げると「どっちにしろ洗わないといけないので、1人も3人も変わらないです」と、手早く片付けを進めながら答えてくれました。
曰く、塗料は混ぜた瞬間から硬化が始まってしまうので、作業を行うまでに1工程づつ使う材料や道具を用意していく必要があり、使った道具についた材料を落としておかないとそのまま固まってしまうため、洗って綺麗にする作業が間に入って施工より準備や用意の方に時間がかかってしまうのだとか。
なるほど。塗料の希釈にも道具の洗浄にも必要になるため、シンナーは必要不可欠な材料なわけですね…。マニキュアの匂いがする、なんて思っていてごめんなさい。