ちなみにその一方で、竹内さんとカズさんは外壁の上塗り中。
濃い色だった中塗り塗料から、もっと薄いベージュのような色に仕上げています。
前回体験させてもらった外壁はサイディングだったのですが、今回はモルタル。
ローラーも少々毛の長いものを使っているのか……遠目なので分かりませんが、隅までしっかりと塗布する姿に、前回の自分の経験を思い出して、なんとなく右腕に力が入ります。
パテが終わったら、ダイさんは次は狭い右側のベランダの、1層目用のウレタンを希釈し始めました。
先に塗布するのは”立ち上がり”といういわば側面です。希釈中はもちろん、手伝わせていただくとはいえほとんど見ているだけ。
ここでようやく、防水塗装の本当の大変さがにじみ出ているのですが、それに気付くまでにはもう少し掛かります。
パテの希釈は私がやったので、今回は佐藤さんが立ち上がりウレタンを希釈します。
もちろん数量は経験則でダイさんの指示通りに。
気温などでもウレタンは溶け方が違うんだそうで、その細かさにも驚きます。
しっかりした人でないと、防水塗装って出来ないんだなと凄く実感しました。
さっき私がやった分量の、5倍くらいはある量を佐藤さんが希釈していくのを、私と井上さんが写真に収めます。
事務所でこれを記事にしなければならない仕事があるので、必死です。
ただ自分たちで撮っていても、あーここだけでも撮っておけば良かった……と後悔する事もあるのですから、職人さんに普段頼んでいるのが少し申し訳なくなるくらい。
佐藤さんも私と同じように動かされているのを見ながら、希釈が終わった塗料をもってまた上へと向かいます。
そうそう、井上さんは腰が悪いので、ベランダに入れず……なので、今回は基本的に写真や動画を撮る掛かりに専念していただきました。
今度は先ほど外壁塗装をしていた竹内さんも持っていたようなプラスチックのバケツに、さっきよりもゆったりとしたウレタンを入れて、また、私と佐藤さんがベランダ内へ入ります。
たちあがりは先にも書いたように側面部分なので、ベランダに寝そべるような体制でやるしかありません。
塗料を置いて、流す。
その説明を守って、刷毛にたっぷりの塗料をとって、ちょうどカーブがある境目の部分に塗り付けます。
たっぷり取ったと思っても、あまりつかないのが不思議です。
規定通りの希釈のせいなのでしょうか?これが恐らく水のようにしゃびしゃびだともっと塗りやすいのかもしれませんし、もっと希釈が甘かったら、塗りづらいのでしょう。
垂れる塗料を均しながら、薄くなり過ぎないよう、そして厚くなり過ぎないよう、刷毛を動かしていきます。
どこまで塗布していいのか?むしろ上の方はいいんだろうか?
その疑問を投げかけたら、やはりここまでではなかったみたいで「やりますか?」と笑顔を浮かべられます。
不敵とも言えるような笑みを浮かべたダイさんが、教えてくれるためにひょいと身軽にベランダ内へ入ってきます。さすがに三人も入ると、狭くなるようなものですが、どうにかダイさんとわたしと佐藤さん、三人で頭を突き合わせてダイさんの作業を見つめました。
「ここからやるんです」と言う言葉と共にやっていただく刷毛さばきは、やはり見ているとひどく簡単に感じます。
軽い刷毛さばきで塗って見せてくれたのを脳内に描きながら、自分でも見よう見まねで塗布してみます。
手際が良いと、その真似をしてみたくなるものですが、案の定上手くいきません。
自分なりにゆっくりやって、やっと形になるものに。一見簡単そうで、確かに塗るだけは簡単なのですが、その一つ一つに実は技術が隠されていると実感する瞬間です。
簡単なもの、例えば外壁塗装であれば、中塗りなんかは当社の職人であればやらせてくれるので、興味がある方はやってみても良いかもしれませんね。
さて、順調に塗り広げていく立ち上がりの1層目の塗布。
難しい所(ドレンなどの所)は先にダイさんがやってくださっているので、私たちは平面をひたすらに塗って行きます。
垂れた分は床に塗り広げながら。本当は垂れても広く塗り広げないのが理想ではありますが、さすがに初心者なのでべたべたと塗り広げてしまいます。
ダイさんのところと出来が違うのは一目瞭然。
それでも変な施工にはしないよう、塗料はプロが希釈をしてくれたものだとはいえ、美観を損なってはいけないと一生懸命です。
もう格好なんか気にしていられません。
思いっきり体を折り曲げて、覗き込みます。
塗布が終わってから、次は平場のクロス貼りまで施工をさせていただけました。
ダイさんいわく、説明よりやってみないと分からない、とのこと。
確かにその通りなのです、見ているだけであれば、動画でも十分。
だけどわざわざ出向いて、そして普段ならすぐ終わるような作業を丁寧に説明してくださったダイさんには頭が上がりません。
どの施工もまずはプロの見本から。
ダイさんがはじっこを合わせてふわりとクロスをかぶせたあと、ドレンのあたりをまあるく切り取ります。
それから、一斗缶を直接傾けて、クロスの上にウレタンを溢してローラーで伸ばしはじめました。
クロスは布のようなものなので、普段通りに上下に動かしてしまうと、クロスが寄れてしまいます。
それを阻止するため、ローラーは手前の一定方向に回す事がルールでした。
ダイさんがやった後に、まずは私が入ります
。見よう見まね、持ち上げた一斗缶は、前回の塗料の重さを思い出しつつもったのですが、分量が少ないせいなのか、それともウレタンが軽いのか、思ったよりも重たくはなかったのを覚えています。それでも十分重たかったのですが。
ローラーを言われた通りにまっすぐ手前に引きながら、デコボコしないように気をつけます。
ベランダは毎日見ますし、入りますし、確かに防水効果も大切ですが、だからと言って不格好なものには仕上げられません。
気になるところだからこそ丁寧に進めていきます。
写真で見ている分には、ウレタンでクロスが隠れるものだと思っていたのですが、ダイさんいわく「クロスは隠れない」だそうで、実際、1層目完了後に見てもうっすらと網目が透けて見えていました。だから、クロスが入ってないベランダは見て分かるんだなあ、と納得です。
途中まで終えた後、私の代わりに佐藤さんがベランダに入りました。
同じように施工するところを見ていたのですが、自分がやっているときは分からないぎこちなさが手に取るように分かります。
恐らく、私の施工の様子もこうだったでしょう。ただしいのか分からないまま進めていましたが、しっかりと付ける事が出来たので安心です。
最後の終わりはもちろんダイさんが行いました。クロスを貼っている時には気付かなかったのですが、どうやらクロスは伸びる素材だそうで……。
軒天などを塗っていたカズさんが、手を休めて私たちのところへ来た時の
「やっぱりクロス伸びる?」
「伸びますね」
その会話がやけに記憶に残っています。
余った部分をハサミで切って、ひょいと足場まで戻ってくる様は、やはり慣れているなあ、と思わざるを得ません。
ここで、ふと竹内さんが「カズ」と呼びます。
私たちと接している時のラフさのかけらもなく、すぐに返事をするカズさんは少し新鮮です。
「ちょっと足を貸してくれ」
そういう竹内さんをじっと見ていれば、二段になっている屋根の間の壁…と言うんでしょうか?を、塗布するために体の支えが必要だと言う事です。
確かに足場は周りにはあっても屋根の上にはありません。あまりに急勾配であれば足場も組みますが、屋根塗装の段階では特に特別必要だったわけでもありません。
カズさんの足を土台にして、座ったままでは覗きこめなかった部分を塗装していきます。
こういった職人同士の助け合いも、良い塗装をするための力だな、と同時に、こういった事が可能である職人の仲の良さと言いますか……大切だなあ、と思う次第です。